2018.04.23

人物記念館 散歩 第1回 太宰治文学サロンと禅林寺

TEXT BY 久恒啓一、イマタマ編集部

三鷹にある「太宰治文学サロン」は2008年の没後60年と2009年の生誕100年を記念して、三鷹市が太宰が通った「伊勢元酒店」の跡地のマンションの一階にオープンしたものである。

 訪ねたところ、駅から数分の便利なところにあり、狭い空間だがきれいなつくりで案内してくれる人も知識が豊富で気持ちがいい。

 太宰治は1909年生まれで39歳になる直前の1948年に玉川上水で心中をしている。1939年から死までの9年間を三鷹の下連雀に住み、「走れメロス」「斜陽」「人間失格」など代表作の大半をこの地で書いた。三鷹から井の頭公園までの間には、太宰以外にも、山本有三、三木露風、武者小路実篤などの文人が多く住んでいた。最近亡くなった吉村昭は妻の津村節子とともにこの地に住んでいたから、文学にゆかりの土地柄である。
 1939年に石原美智子と見合い結婚をした太宰は、9月に東京府北多摩郡三鷹村下連雀に転居し、6畳・4畳半・3畳に縁側と風呂場という貸家に家族で住んだ。12坪というから筆名の高さの割にはずいぶんと狭い。この家が終生の住まいとなった。1947年に太宰のもとに原稿を取りにいった編集者は「あたり一面がヒバリのさえずる麦畑だった」と言ったようにこの当時は田舎だった。

 太宰の遺体が発見された6月19日は誕生日だった。この日は「桜桃忌」(おうとうき)と名付けられ太宰を偲ぶ会が今も墓のある禅林寺で催されている。この名前は名作「桜桃忌」からとったものである。桜桃とはサクランボのこと。

 「生きるという事は、たいへんな事だ。あちこちから鎖がからまっていて、すこしでも動くと、血が噴き出す。」という言葉が、この本の中にでてくる。生きにくかった太宰の心情が読み取れる言葉である。

 年表を見ると、自殺願望が強いことに驚かされる。
 20歳、期末試験の前夜カルチモン自殺未遂。21歳、鎌倉小動埼海岸で薬物心中を図り、女は死亡。26才、都新聞の入社試験に失敗し首つり自殺未遂。28歳、妻初代の過去に悩み谷川温泉で心中未遂。4回の自殺未遂を経て、ようやく5回目に本望を遂げたのだ。何と生きにくい人だろう。

1948年1月に喀血。3月頃から山崎富栄が付き添い栄養剤を注射しながら「人間失格」を執筆。「新潮」紙上で志賀直哉らを痛烈に批判。5月、「桜桃」を発表。6月から「人間失格」を「展望」に連載。6月13日夜半、「グッド・バイ」(未完の絶筆)の草稿、遺書数通を机辺に残し、山崎富栄とともに玉川上水に身を投じる。19日に「二人の遺体が発見される。


 遺品の「火鉢」が展示されていた。この火鉢は師の井伏鱒二の自宅にしばらく置かれていたものであるが、「琴の記」という井伏の小説の中にこの火鉢のことがでてくる。太宰は38歳で亡くなるのだが、その短い生涯に140冊の小説を書いている多作な作家である。

禅林寺まで足を延ばした。大きな銀杏の木の傍らに「森林太郎 言 加古鶴所 書」と書かれた森鴎外の有名な遺書が刻まれた石碑がある。「森林太郎トシテ死セントス 墓ハ森林太郎ノ外一字モホル可ラス」とある。

 

墓地に入ると「森林太郎墓」とのみ記した大きなごつい墓石があった。字は森のような、林のような字である。その反対側の斜めの位置の津島家(太宰の本名は津島修治)の墓碑の隣に「太宰治」とのみ記した小ぶりの石がつつましく建っていた。墓という文字はない。

 「この墓地は清潔で、鴎外の文章の片影がある。私の汚い骨も、こんな小奇麗な墓地の片隅に埋められたら、死後の救いがあるかもしれない」と書いたとおりになった。この二人の文豪の墓には花が飾ってあった。鴎外の墓には、紫色のトルコ桔梗、紅いバラ、赤い鶏頭(ケイトウ)、紫の竜胆(リンドウ)、そして太宰の墓には、吾亦紅(ワレモコウ)、菊、竜胆、向日葵(ひまわり)の花だった。鴎外は本名の墓であり、太宰は筆名の墓である。「太宰治」とのみ記した墓にはさまざまな理由があるのではないかと感じた。

この写真は先生が2008年に撮影されたものです。

この写真は先生が2008年に撮影されたものです。

 

●久恒啓一 プロフィール
多摩大学 副学長
大分県中津市生まれ。九州大学法学部卒業後、1973年、日本航空に入社。
広報課長、サービス委員会事務局次長を経て早期退職。
1997年、宮城大学事業構想学部教授、2008年、多摩大学経営情報学部教授。2015年より現職。
ベストセラーとなった『図解シリーズ』のほか、『遅咲き偉人伝~人生後半に輝いた日本人』(PHP研究所)、
『偉人の命日366名言集』(日本地域社会研究所)など著書は100冊を超える。
久恒啓一図解WEB: http://hisatune.net/

DATA

太宰治文学サロン

 

 

 

住所/東京都三鷹市下連雀3-16-14  グランジャルダン三鷹1階
TEL/ 0422-26-9150

【開館時間】10:00~17:30 入館無料
【休館日】月曜日、年末年始(12月29日~1月4日)
※月曜日が休日の場合は開館。その翌日と翌々日休館

詳しくはhttp://mitaka-sportsandculture.or.jp/dazai/info/